その日その時、世界中のありとあらゆる軍事監視システムがいっせいに吠えた。
 科学力を誇る大国の巨大軍事コンピューターネットワークも、小国でありながら核武装している局地的な早期警戒網も、いままで想定していなかった方面からの侵略の気配を感じ取ったのである。
 その方面とは、遥かな外宇宙───太陽系の外からのものだったからだ。
 すでに人類は月面は勿論の事、火星には大規模な植民地を作り上げ、さらに木星軌道上に巨大な核融合プラントを構築中であり、いままた土星を経てさらなる外惑星へ向けてあくなき挑戦を始めていた。
 いうなればもう“太陽圏”という考え方ができつつある所まで人類の英知は届きかけているのである。


 しかしそれだけ大規模に宇宙進出を成功させながらも、母星である地球は未だに小さな領土とその権益をめぐって争いを繰り返していた。いや、むしろ宇宙へ出れば出るほど、その争いも飛び火しつつ拡がってゆく一方だったのは、空想科学小説が予言してきた通りだったのである。
 数カ国の大国の強大な軍事力の元に一応、表向きは危ういながらも微妙な均衡を維持している格好だったが、むしろその傘の下では小国同士が大国の思惑に躍らされては紛争を誘発させられていた。
 紛争中の当事者の小国からすれば未来を賭けた死活問題であったが、武器や物資を供給し続ける大国からすれば適度で好都合な消費産業ゆえに、完全な平和など与えてはならないのである。
 同時に、大国数カ国という今のメンツでゲームを続ける限り、相手の出方も手の内も知れている…という意味では、世界は平和だと言えたかも知れない。
 だから信じたくなかった。今さらゲーム盤をひっくり返す無礼な新参者など。
 しかし隣の太陽系であるケンタウルス座プロキシマ恒星系、くじら座タウ恒星系などへ向けた無人探査機や、冥王星軌道上の中継ステーションの通信途絶、それらが切れる直前に送ってよこした報告と各地・各惑星宇宙センターからの観測データが合致した結果は、誰もが苦笑いするしかない馬鹿馬鹿しい答えを導き出していた。
 《外宇宙からの太陽圏への侵略》である。
 未曾有の事態に世界は震撼した。接近する無数の物体が宇宙船だと仮定して、その光学ベクトルのドップラー効果から得られた接近速度は地球の科学力をゆうに凌駕する信じられないものであった。

 もう小国は小競り合いを、大国は小国を駒として権益という陣取りゲームなどしている場合ではなくなった。無条件に近い協力体制を固め、まずは手薄な外惑星帯の前線基地からは監視装置のみを残して人員を撤退させ、逆に火星を第一次、月を第二次として《連合軍》の膨大な軍事力が投入され、大掛かりな防衛線基地を構築した。
 地球でも大国は残る総力を結集して国民を守り抜く体制に移行し、属国は大国の力にすがろうと必死のモミ手外交に努め、そんな寄る辺すらない小国のあるものは達観し、あるものは小さな国をさらに小さく割ってまでいずれの勢力に与するかで更に揉めた。
 しかし火星も月もあっさり無力化されると、アッという間に地上の人々は徹底抗戦を唱える派と、非武装による和平外交派のまっぷたつに分かれ、延々とイデオロギーをぶつけ合う世界的バトルロワイヤル状態になって文字通りの混沌となった。皮肉にも民主主義が足を引っ張ったのである。
 互いに潰し合う愚を犯した地球には、異星人に対抗したくても既に武力として機能するユニットは存在せず、結局無抵抗のままで侵略者の地球上陸を許すハメになった。

 鳥の群れのように大挙飛来した彼らは地球軌道上に陣取って、その使者団はかつての国連本部へ降り立ったが、人類史に記念すべき異星人の第一声、「君たちの指導者に会いたい」という問いに応えられる人物はいなかった。
 候補を絞れず、暫定政府を擁立できなったのだ。
 驚いた事に彼らに侵略の意図などなく、こちらの方面宇宙への拠点として地球圏の設備を利用させてくれればいいと告げた。
 かくして地球は本当の意味での宇宙時代を迎えた。結果的に地球は単一国家としてまとまり、同時にケンタウルス座の三つの恒星系やおおいぬ座α星、くじら座タウなど、銀河オリオン腕宇宙域の宇宙人たちとの惑星国家間のつきあいも始まった。

 そして数世紀。そんな関係も長くは続かず、星間戦争を何度も起こしたのち、惑星そのものが破滅するほどの反物質破壊兵器を互いに向けあったままの危険をはらんだ危ういバランスのもとに、なんとか銀河オリオン腕宇宙域は平和を維持するようになっていた。
 だがある日、そのバランスを大きく揺るがす事件が起こる。遙かな遙かな宇宙の果てから、超空間通信でメッセージが届いたのである。

「我々は君達がアンドロメダと呼ぶ、隣の銀河から…」



《幕》


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